矯正歯科の患者さんが歯の治療中に遠くへの転居等でやむを得ず先生を変更される(以下、転医といいます)際、患者さんが納得できる円滑な治療の引継ぎが大切となります。そのためには、できるだけ近くの先生がいいのですが、技術的に優れた信頼できる先生にお願いすることも大事なことです。矯正歯科医会には、約400余名の矯正歯科治療経験の豊富な「専門開業医:オルソドンティスト」である会員が全国各地におり、以下のような会員間の取り決めにより、これを速やかに引き継ぎ、患者さんにとって満足の行く治療結果が達成できる体制を整えています。
1. これまで治療していた先生は、患者さんを確実に引き継ぎの先生に紹介します。
2. 患者さんのこれまでの治療の内容や今後の治療方針は確実に引き継ぎの先生に伝え、以後の治療に関しては、
その先生が責任をもって治療にあたります。
3. これまでの治療費は、治療の進み具合を判断して清算することとしています。このために、先生は患者さんに納
得できる説明を行います。
4. 治療引継ぎをする上で、転医前後の先生に好ましくない行為があれば、規則でこれに改善を求めたり、懲罰を加
えることになっています。
5. これまでの治療や今後の治療について、疑問があればご遠慮なく転医前後の先生にお尋ねください。
※患者さんの事情で、引き継ぎの先生が決まらない場合、会員医院を参考に決定してください。
※海外に行かれる場合、早めに先生にご相談ください。ただし、後述のように国によって対応不可能な地域があることを、あらかじめご了解ください。
前文
この規程は矯正歯科医会(以下、本会とする)倫理規約第10条にのっとり、矯正歯科患者が矯正歯科医を変更(以下、転医とする)する際、円滑に治療継続されることを目的とし、倫理規約1条に記載する「最良の医療を提供」するために定められる。また、転医に際しては、患者にとっても多くの犠牲を伴うことが予想されるため、治療担当者に対して、このような患者の立場を十分配慮した対応を喚起する目的をもって定められる。
第1条
本会に所属する会員(以下、会員とする)は、矯正歯科患者の転医について、他の会員に治療継続を依頼する場合、以下の規程を遵守しなければならない。また、海外や会員以外の矯正歯科医に対しても、できるだけこれに準じ処理するよう努力しなければならない。
第2条
会員は、転居の可能性のある患者において、矯正歯科相談時に治療内容や治療費等について地域差や医院間格差があることを、あらかじめ伝えておかなければならない。
第3条
会員は、患者が転医するにあたって、あらかじめ治療継続について、これから紹介する会員に連絡を行い、その承諾を得た上で紹介しなければならない。
第4条
会員は、紹介に際して患者に関する各種情報を、これから紹介する会員に提供しなければならない。
第5条
会員は、紹介を受ける場合、原則として治療継続を拒否することは慎まなければならない。
第6条
会員は、診療継続を引き受ける場合、今後の治療方針、治療期間および治療費その他必要な事項について十分患者に説明をし、承諾を得た後に治療継続を進めなければならない。
第7条
会員は、診療継続を引き受ける場合、その治療結果について基本的にその責を負わなければならない。
第8条
会員は、診療継続を引き受ける場合、前に治療を行っていた会員の治療内容について、批判・誹謗することを慎まなければならない。
第9条
本会は、前に治療を行っていた会員が治療引継ぎの際に自ら重大な過失を隠蔽した場合、当該会員に対し倫理規約第11条に従い、処分することができる。
第11条
その他必要ある事項については、理事会において決定する。
第12条
この規程に関連する事項については、別に細則に定める。
附則
本規程は、2002年4月18日より制定し施行する。
- 会員は、継続を依頼するために紹介する会員に下記の情報を速やかに提供しなければならない。
- 本会の定める「治療継続依頼書」等の文書
- 模型、セファロ、パントモ、写真、その他 治療の継続に必要な資料
- 医院の矯正料金規定文書(パンフレット)および治療費支払いと清算状況
- 会員は、治療継続の紹介を受けたが、患者が診療継続を望まなかった場合、速やかに紹介した会員に上記1の(2)および(3)を返却しなければならない。
- 会員は、治療継続を引き受けた場合、上記1の(2)の資料が不要となり次第、紹介した会員に返却しなければならない。
- 会員は転医に伴う清算の措置を行う場合、治療の進行程度によって金額を決定すべきであって、使用装置の過多や治療期間の長短等によってこれを決定すべきではない。
- 会員は治療継続を引き受けた場合、患者に今後の治療計画、治療期間、治療費の明細、その他を説明し、了解を得た上で新たな治療開始の契約を結ばなければならない。
- 会員は、今後一貫して引継ぎ治療を辞退する場合、その旨を本会に届けなければならない。これを回復する場合も、その旨を届けなければならない。
- 会員は、治療継続の紹介を受けた場合であっても、以下の事項に該当する際には、治療継続を拒否することができる。治療継続を拒否する場合、必ず紹介した会員に事情を説明し、できればその地区における対応可能な矯正歯科医療機関を案内することが望ましい。
- 矯正歯科治療単独では回復不可能な不正咬合
- その他、回復不可能と判断される極めて重篤な不正咬合
- 使用されている矯正装置が特殊で、その装置の変更を患者が望まない場合
- 患者が治療継続を望まない場合
- 矯正治療を継続することが難しい疾病もしくは環境にある場合
- その他
- 会員は、これから紹介する先の会員の医院治療総額が自院と著しく異なると予測される場合、あらかじめこの会員に連絡をとり、引継ぎ治療費を相談した上で紹介しなければならない。
- 会員は、治療継続を引き受ける場合、紹介した会員の医院より継続治療費総額が大幅に超えないよう努力すべきである。
- 会員は、治療継続を引き受ける場合、今後の治療費について患者に同意を得るとともに文書を手渡し、紹介の医院にも同様の文書を送付することが望ましい。
- 治療継続に係わる患者もしくは会員間の紛争は、あくまで当事者間で解決することを原則とし、本会はこれに関して助言をするにとどめる。
矯正歯科が一般の歯科と大きく異なる点は、子供さんの場合、成長発育に伴い年々変化して行く歯並び、咬み合わせや顎を対象にしていることです。そのため、治療は長期(3〜10年)を要するのが一般的です。
また、近年増えている大人の方の場合でも歯を徐々に動かし整列させるために、通常数年の治療期間が必要です。さらに矯正装置を装着した後に途中で外したり、中断することは再度治療を開始した際に中断期間以上の遅滞となり、医師と患者共に一層の苦労が強いられます。
一方、医師により使用される装置が微妙に異なることが多く、治療テクニックも極端に違うこともあり、治療途中で海外の医師に引き継ぐにしてもだれでも良いという訳ではないのが現状です。
このような歯科の分野でも、特殊な矯正歯科への対応は海外滞在の条件が長期(4年以上)と短期では考慮するべき事柄で異なってきます。
くれぐれも海外滞在の計画の初期の時点で、日本の矯正歯科医によく相談されることをおすすめします。
■北米(アメリカ合衆国、カナダ)およびオーストラリア
どこの地域でもほぼ日本と同様の治療テクニックやシステムですが、必ずしも日本ほど均質ではありません。10年程前より日本人だけを対象にしたような看板をかかげ、日本語を話せる受付をおきチェーン展開しているグループが増え、様々なトラブルを起こしています。ご注意下さい。
■欧州・メキシコ
主要都市では概ね日本、北米と同様の医療を行っている医師は必ずおりますが、地方では期待できません。
■南米・中米・中近東・アフリカ
欧州と同様ですが、環境は整っておりません。
■東南アジア(ホンコン・インドを含む)
南米、中米と同様です。
■台湾・韓国
ほぼ日本と同様です。
■中国・ロシア
大学病院が中心ですが、事情が複雑です。
各国でトータルの費用が全て異なるのは当然ですが、アメリカ合衆国、イギリスの一部を除き、物価等が極めて高い日本が一番高いようです。また、治療費の支払い方法も様々です。トラブルを避ける為にも事前の見積もり、および治療内容に対応した明細書が提示される医院を選ぶことも大切です。帰国後の治療継続やメインテナンスの際にも役立ちます。
現在、主流となっている矯正治療は、全部の歯にブラケットという装置を取り付け、ワイヤーやゴムの弾力性等により歯を動かすマルチブラケット法というテクニックです。このマルチブラケット法の中でもエッジワイズ法と呼ばれるものが多く用いられているのですが、この方法でもさらに数種類あり、互換性のない場合があります。治療の継続を海外で行う難しさがここにあります。
また、発展途上国では取り外しの出来る装置で全て治療できる、あるいは歯を一本も抜かないで治療できる等の方法を提示される医師が多いようですが、学術的には非常に疑問です。必ずセカンドオピニオン*を考慮して下さい。
*セカンドオピニオン:その分野をよく知っている他の医師の意見も聞いてみること
海外滞在が短期(1〜2年)
海外滞在先で治療を継続しても構いませんが、治療費の負担増や意志疎通の難しさ等を考えると、日本で一度装置を外し、現状を維持出来るようにしてもらい、帰国後日本で以前と同じ医師により再開されることをお薦めします。
海外滞在が長期(3年以上)
通常、3年以上海外に滞在される場合治療は滞在先で完結しますので、日本の主治医が矯正歯科専門開業師ならば同じテクニックで信頼される先生を紹介してくれます。また、現地の専門開業医のリスト(参1)を渡されるかもしれません。そして、必ず治療経過に関する資料(歯型、レントゲン写真、顔や歯の写真、分析表、治療計画書、治療費の明細書)およびトランスファーフォームという矯正治療継続依頼書(参2)を持参されるよう、あるいは引き継ぎ医師が決まり次第、直接そちらへ郵送する旨の説明があるはずです。滞在先の医師から帰国後の継続を依頼される場合でも世界中の専門開業医間の共通のルールとなっています。このようなルールを知らない、出来ない、してくれない医師は極力避けるのが賢明でしょう。
帰国予定が2年後くらいの場合、帰国後に治療を始めるのが賢明です。前述の日本人を対象にした北米のグループでは、この点で多くの問題を起こしています。日本の専門開業医も紹介せず、トランスファーフォームもなく、あと少しで終わるからと云われ、帰国後矯正歯科医に行きついた患者さんの多くは、これからが治療の長くかかるという状況で、しかも治療費はすでに全て支払い済みということも多いようです。
通常、治療費の精算は治療の進行度合いにより精算するルールですが、テクニック、装置の違いにより、帰国されると大体装置を交換しなければならないのが現状です。しかも、日本では料金ベースが高く、医師も患者さんも負担増になることは避けられません。
前述のリスト(参1)に登録された医師ならば、帰国先の日本の専門開業医のリストを紹介され、しかるべきルールに従い対応されるはずです。
長期滞在(4年以上)を前提としますが、北米、オーストラリアでは子供さんの場合、学校、大学に相談を受け入れるセクションがあります。大人の場合は、必ず地域に日本人コミュニティがあります。また、費用についても会社の医療保険制度を利用できる場合が多いようです。上記以外の国では、まず日本の専門開業医に相談されるのがよいでしょう。ホームページでの相談を受け付けている医師も増えてきています。また、下記の機関に相談され、紹介されたリストから探すこともできます。
近畿北陸臨床矯正歯科医会
住所:東京都渋谷区千駄ヶ谷5-26-5 代々木シティホームズ101号GIA内
電話:03-3352-9351
URL:http://www.orthod.or.jp/
矯正歯科を専門に開業している医師の団体で大多数が日本矯正歯科学会の指導医、認定医を取得し、AAO(American Association of Orthodontists)、WFO(World Federation of Orthodontists)の会員です。
日本矯正歯科学会
住所:東京都豊島区駒込1-43-9 財団法人口腔保健協会内
電話:03-3947-8891
URL:http://www.jos.gr.jp/
一般歯科の医師も含めた学術団体です。
AAO(American Association of Orthodontists)
住所:401 North Lindbergh Boulevard St. Louis, MO 63141-7816
電話:314-993-1700
URL:http://www.aaortho.org/
アメリカ合衆国の矯正歯科専門開業医の団体ですが、世界中の専門開業医も参加しています。ここで発行している医師の名簿(Membership Directory)は、ほぼ世界中を網羅しています。
EO(The European Orthodontic Society)
住所:Flat 20,49 Hallam Street London W1W 6JN,England
電話:+44 (0)20-7935-2795
URL:http://www.aaortho.org/
欧州の専門開業医の団体です。
WFO(World Federation of Orthodontists)
住所:401 North Lindbergh Boulevard St. Louis, Missouri, 63141-7816, USA
電話:314-993-1700
URL:http://www.wfo.org/
世界各国の矯正歯科学会の会員の中でも、特に学術的にも技術的にも専門性を高める意志を持った専門開業医の団体です。
日本における歯科矯正歯科界の現状は専門開業医に限っていえば技術的に世界中で一番均質で倫理的にも高いレベルを維持しています。
まだまだ世界は広すぎます。治療にあたっては、前述の矯正歯科の特殊性に充分配慮してください。
*謝辞:この文書は、著者市川 和博先生のご好意により、下記の著作を一部変更することを許可いただき、近畿北陸臨床矯正歯科医会の会員のために患者配布用として作成させていただきました。
「海外派遣労働者のための歯科事情安心ガイド(仮称)第19項 海外生活と歯科矯正」
日本歯科医師会地域保健課編 平成13年度発刊予定















